☆有機リン及びカーバメート中毒  
  過去に使用されてきたDDTを代表とする有機塩素の殺虫剤は,土中および生体内,特に長期に
残留するので,生物の保護のため,より残留が少なく,生物学的無害化に優れた有機リン剤や
カーバメート剤の使用が促進された。有機リンおよびカーバメートの中毒は,神経組織のコリン作動性
接合部に働くコリンエステラーゼの阻害によるものである。正常では,アセチルコリンが副交感神経の
シナプスと 神経筋接合部に放出されるが,速やかにコリンエステラーゼ酵素により加水分解される。
この分解酵素が薬剤により阻害された場合,アセチルコリンは神経を持続的に刺激しているままとなる。
ムスカリン作用が過剰になるため,縮瞳,流涙,流涎,呼吸器よりの分泌の過剰,呼吸器困難,心機能の
異常が発現する。ニコチン様作用および中枢神経系刺激作用が発現すると,筋の攣縮が起こる。
    ◇毒物の性状
1,有機リン剤特有の臭いがある。
2,中毒量は薬剤ごとにさまざまであるが,代表的な有機リン剤,カーバメート剤の商品名および
LD50(mg/kg)を記す。
   a)有機リン剤
      エチルチオメトン(ダイシストンR,エカチンR),毒(5%以下は劇)
         マウス14.1, ラット雄12.5, ラット雌2.6 
      ダイアジノン(ダイアジノンR),劇
         ラット雄250, ラット雌285
     MEP(スミチオンR )
        マウス雄1030, マウス雌1040, ラット雄330, ラット雌800
  b)カーバメート剤
     BPM(バッサR)
       ラット雄524, ラット雌425
     NAC(デナポンR,ナックR,セビンR)
       ラット雄850ね ラット雌500
3,有機リン剤による酵素の抑制は不可逆的だが,カーバメート剤では可逆的である。
 
     ☆パラコート(グラモキソン)中毒
  パラコートは雑草の茎葉に散布する事により,ほとんどの雑草を速やかに枯らす。また,土壌と接触
すると強く吸着され不活性化される性質を持っており,土壌を介して植物の根に障害を及ぼす事が
ないため,農家にとって不可欠の除草剤となっている。散布中の事故はほとんどなく,使用者の不注意
による事故など以外には死亡例はない。しかし動物の場合は,常時散布を行っている場所で飼育され
中毒を起した症例が報告されている。
   ◇毒物の症状
1,LD50=マウス 51mg/kg, 犬25mg/kg
  パラコートは催吐性物質および苦味物質を含む暗青緑色水溶性液である。
2,動物における毒性の機序は,ジピルジル化合物の酸化・還元時に遊離基が生産される事に
       よると思われる。パラコートが動物体内に取り込まれると酸素と反応して,過酸化水素や
       水酸ラジカルを生成して,細胞膜の脂質を変質するものと考えられる。また,パラコートイオンは
       還元されてパラコートラジカルとなる。生成したラジカルは還元力が強く酸素と出合うと,れを
       還元してスーパーオキサイドを生成し,自身は酸化されてパラコートイオンに戻るので,症状は
        不可逆的となる。スーパーオキサイドは,急性虚血性疾患の原因となる。  
 
     ☆食中毒   
  残飯・食品の摂取や飲水に伴い,腸性毒血症や内毒素血症を引き起こす細菌が体内に入り,
中毒症状が発現する場合と,毒素産生性真菌の毒性代謝産物がペットフード等に産生され中毒を
起す場合がある。
     ■原因
  1,Streptococcus aureus,Clostridium perfrin‐gerusやBacillus sublitisはエンテロトキシン
     (腸毒素)を産生する。
  2,エンテロトキシンの生物学的作用は,腸上皮の分泌機能を活性化し,水分,電解質を喪失させる。
    胃腸運動,膜透過性,神経系相互作用に影響を与えるヒスタミン,プロストグランジンや
        トロンボキサンチンを活性化させる。
  3,エンドトキシンを含んだ食物の摂取や,非常に多くのグラム陽性菌を含んだ食物が,
     上部消化管に達した時点でエンテロトキシンやエンドトキシンを産生し,ショック症状を
         伴う中毒症状が発現する。
  4,エンドトキシンは,毛細血管透過性の変化や,第Z因子の活性化,ヒスタミン,キニジン,キニン,
   インターロイキン等を活性化し,微小血管へ多型核球が粘着するので好中球減少が生じる。
        これらの作用はショックを誘発する。
  5,Escherichia coliやサルモネラに著しく汚染された食物の摂取。
  6,トウモロコシ,綿実やピーナッツに発生したAspergillus flavusやAspergillus parasiticusによって
      産生された肝毒素であるアフラトキシンの摂取(毒物による肝疾患の項=P.287=参照)。
 
    ☆鉛中毒   
  鉛中毒は,その原因物質である鉛が,リノリウム,鉛を含むペンキ,バッテリー,ハンダ,釣具の
オモリなど,身近に多く存在するため 起こりやすい。また,汚染された土壌や水を摂取する事でも起こる。
症状は食欲不振,嘔吐,下痢あるいは腹痛といった消化器症状と運動失調や痙攣発作を呈する
神経症状を主徴とする。中枢神経は,毛細血管損傷による血液供給減少の影響を受ける。末梢神経
は分節性脱髄を起し,神経伝達が遅くなる。また,鉛はチオール含有酵素を阻害する。全血の鉛分析は,
重度の貧血を示さないにも関わらず,多数の有核赤血球が出現する。また,血液塗抹標本では赤血球
に好塩基性斑点やパッペハイム小体の出現といった,他の疾患ではみられない特徴的な所見がある。
                        
     ☆蛇毒咬創  
  日本に生息する毒蛇は4科18種といわれているが,主に動物が被害を受けるものに,マムシ科の
日本マムシとクサリヘビ科のハブが知られている。マムシは出血神経毒をもち日本全国でみられる。
ハブは出血毒を有し沖縄と奄美大島が主な生息地である。
    ◇原因
  1,マムシは,川辺,湿地,また藪の斜面など湿気と暗い所を好む。ハブは,活動的,行動的である。
   夜間活動性で木にも登る事が出来る。毒蛇による障害は咬傷時の毒液の注入によって起こる。
  2,蛇毒の成分は20種あまりの酵素の他,ポリペプチド,糖蛋白低分子化合物であるが,
    その作用によって,神経毒,出血毒,血液循環障害毒の3つに大別される。
  3,マムシ毒とハブ毒で毒性の差はないが,ハブはマムシに比べて大型であるので毒液の注入量が
      多く,より重症となる。
  4,マムシ毒やガラガラ蛇の出血因子は蛋白分解酵素であるが,ハブ毒の出血因子は,
      蛋白分解酵素活性を示さない。マムシ毒にはプロテナーゼa,b,cの3種の蛋白分解酵素があり,
            bは出血作用,cは浮腫作用を示す。
 
              犬の診療最前線・interzoo より