☆貧血 
  貧血は赤血球の産生と破壊のバランスに破綻が生じた場合に発現し,末梢血のヘモグロビン濃度が
正常以下に低下した状態である。臨床病理学的には,ヘモグロビン値,赤血球数,ヘマトクリット値の
いずれかが基準値以下になった場合と定義できる。
 
      ☆赤芽球癆                                                    
 骨髄において赤芽球系細胞のみが低形成となることにより起こる貧血。巨核球系および顆粒球系細胞
には変化がみられないのが特徴。先天性と後天性に分けられ,さらに後天性のものは急性型と慢性型に
分けられる。それぞれに特発性と続発性のものがある。ヒトでは急性型はウィルス感染や薬物に関係して
起こることが多く,慢性型は続発性では自己免疫性疾患や胸腺腫,リンパ増殖性疾患に合併することが
多いといわれている。発生機序は多面的であるが,赤芽球系幹細胞や前駆細胞(BFU‐E,CFU‐E,
前赤芽球)の障害が中心となっている。薬物やウィルスによるものは直接的,さらに間接的(免疫学的)
に赤芽球系前駆細胞に障害を与えていると考えられており,慢性型のものは液性および細胞性免疫学的
抑制因子による赤芽球前駆細胞の障害が推測されている。
  
     ☆再生不良性貧血
  多能性造血幹細胞の量的ないし質的欠陥によって,骨髄ならびに末梢血中の赤血球系,顆粒系・
単球系,血小板系の造血3系統の未成熟細胞ならびに成熟細胞が減少した状態をいい,末梢血の
汎血球減少症と骨髄の低形成を特徴とする疾患である。一般に特発性と続発性に分類される。続発性
のものには薬剤(クロラムフェにコール,フェニトイン,ベンゼン,抗腫瘍剤)によるもの,放射線,感染
(パルボウィルス,猫白血病ウィルス,エールリッヒ)によるもの,ホルモン(エストロゲン)によるもの
などがある。特発性再生不良性貧血の発生機序には免疫学的機構が管よしていると考えられている。
 
     ☆新生子溶血性貧血(新生子黄疸) 
  赤血球に対する同種抗体を持つ母親の初乳を飲む事によって新生子の血中にその抗体が入り,
新生子の赤血球が破壊されてしまう疾患。ヒトでは胎盤を通じて抗体が胎児に移行すると考えられて
いるが,動物では胎盤からの移行はみられていない。
   ◇母親の赤血球抗体産生の機序としては 
 @妊娠中または分娩時に不適合の胎子の赤血球が母体内に混入する。
 A同種血液製剤を含んだワクチンの接種,
 B不適合輸血の経験などが考えられる。 
馬では@が最も多い原因と考えられているが,犬では@が原因になる事はあり得なく,Bが原因になる
と考えられている。問題になる血液型はDEA 1・1型であり,輸血によってDEA 1・1型抗原に感作
されたDEA 1・(−)型の血液型の母親から産まれたDEA 1・2型の血液型の子犬が臨床上問題となる。
DEA 1・2型では臨床上貧血は認められないが直接抗グロブリン試験(DAT)は陽性になる。
 
     ☆バベシア症 
  バベシア症はマダニによって媒介されるバベシア原虫が,赤血球内に寄生する事によって起こる
溶血性貧血である。問題となるバベシアはBabesia canisとB.gibsoniの2種類であり,米国では
B.canisが,わが国ではB.gibsoniが原起となっている。1923年(大,12)大分県での最初の発生の
報告以来,主に近畿地方以西で多くの発生をみているが,近年関東や東北での発生も報告されている。
大西らは闘犬がこれらの発生に深く関与していると述べている。溶血のメカニズムについてはまだ十分
に解明されていないが,自己凝集のみられる症例や直接グロブリン試験の陽性の症例が存在する事
から免疫が関与している事は確かであり,バベシア感染により赤血球膜の抗原性に変化が起こり,
免疫介在性に溶血が起こると考えられている。
 
     ☆タマネギ中毒
  タマネギや長ネギなどを採食する事によって発症する溶血性貧血である。タマネギの成分である
n-pripyl disulfideなどの酸化作用によってハインツ小体が形成される。ハインツ小体を形成した
赤血球は変形態が著しく低下するため脾臓の洞内皮細胞間隙を速やかに通過できなくなり,
マクロファージに貪食される。さらにハインツ小体は洞内皮細胞間隙で選択的に摘除(pitting)され,
このとき細胞膜が断裂し溶血しやすくなる。また,傷ついた赤血球は免疫学的にも破壊される。
 
 
 
            犬の診療最前線・interzoo より