☆子宮退縮不全 
  分娩後に正常な生理的子宮収縮力がないときは子宮退縮不全の状態となり,長期間にわたり悪露が
排泄される。子宮無力症や子 宮の疲労が原因となることがある。犬は分娩時に胎子胎盤の一番外側の
膜が胎盤子宮部に残る。そしてじわじわと出血をおこす。その 後付着している膜は退行変性して,正常な
子宮の収縮によって悪露として排泄される。このとき順調に子宮の収縮が起きず,長く子宮に排泄物が
残れば,膣から血液性の排泄物が持続的にみられる。一般には自然治癒する。
 
      ☆産褥テタニー  
  出産後,雌犬が低カルシウム血症(血清カルシウム値7mg/dl以下)に陥った結果として本症が発症する。
急性で生命を脅かす。多く は授乳のピーク時(3〜4週)にみられるが,時には妊娠後期や分娩直後にも起こる。
一般に多数の同腹子に授乳している小型犬に多い が,あらゆる大きさの犬でみられる。授乳開始時から除々
に乳汁分泌量は増加し,3〜5週間に最高になる。そしてエネルギー要求量は 1.5〜3倍になる。そのため
には特にリンとカルシウムのバランスのとれた食事を与え,その回数を増やすか,または自由に食べられる
ようにする必要がある。市販されている高栄養の栄養管理食を妊娠後半から授乳期間中に与えるのは目的
に合っている。カルシウムの腸からの吸収や骨からの代謝よりも乳汁中への排泄が急に上回ったとき、
低カルシウム血症となり,痙攣性の発作が起き、これを産褥テタニ−という。発作により筋肉の痙攣が続くと
高体温となる。妊娠中の過剰のカルシウム投与は誘発要因となる。過剰カルシウム摂取は腸からの吸収を
低下させ,上皮小体ホルモン分泌を抑制するため,血中カルシウム量を正常に維持できなくなるからである。
過剰な投与はまた,カルシトニン濃度を低下させ,骨からのカルシウムの血中への溶出を抑制する。
このため低カルシウム血症となり,授乳のためのカルシウム需要に応じられなくなる。症状が現れたら
すぐに治療を始める。そして,その効果はすぐに現れる。分娩時に低カルシウム血症と同時に,または,
単独で,低血糖症が起こる事がある。この臨床症状は産褥テタニ−と良く似ているが治療に反応しない。
この時は血糖値を検査する必要がある。低血糖は分娩直前や出産時に起こりやすく分娩の間中の
パンティングや難産,高体温の原因にもなる。呼吸性アルカローシス(過呼吸)を起こすと,カルシウムは
蛋白質と結合しやすくなり,組織での利用が出来なくなる。子犬に再授乳させた時,症状が再発する
場合は子犬を人工哺乳にする。産褥他テタニ−を起こしたことのある雌犬には,妊娠中の食事水準の
改善や授乳期のカルシウム剤投与は予防となる。
 
     ☆子宮脱   
  まれな疾患である。子宮の一部または全部が反転し,子宮頸管を通り膣内または陰門外に管状の塊
として脱出した場合をいう。これ は分娩直後に子宮頸管が開いているため発症する。また一方の子宮角
に胎子が残っているにも関わらず、他方の子宮角が脱出すること もある。脱出した組織は血行が遮断
されると壊死を起こす恐れもあり、汚染により感染を起こす。また血管の損傷により腹腔内出血を起こす。
多くは回復術が必要となる。
 
     ☆新生子の異常  
  分娩後に起こる新生子の異常は先天的,後天的そして置かれている換気用により二次的にも起こる。
環境の悪化はその生命を危うく することになる。その未発達さゆえに新生子には特別な配慮が必要となる。
新生子は哺乳と同等に“ぬくもり”が生存のための必要条件 である。異常は多岐にわたりその徴候は
それぞれ異なるが,母親や同腹子からいつも離れていたり,絶え間なく鳴いてたり,落ち着かずいつも
動いていたりする事も異常の徴候として考える。生まれたばかりの子犬は100g〜700gと幅がある。
(子猫はほぼ100gである。)新生子は未熟なため各機能が十分ではなく,たとえば体温調節,肝臓の
糖代謝や薬物代謝,腎臓での薬物代謝などを正常に行うことが 出来ない。しかし,薬物の吸収は早く,
分布量も大きい。犬種によっては先天的な異常の発現が多いものがある。多くの説明の出来ない
死亡原因を明らかにするためにも,可能ならば剖検を行い,組織検査,ウィルス・細菌培養を習慣とし,
問題解明を図るべである。
 
     ☆子宮蓄膿症 
子宮の腔内に膿汁が貯留している疫病である。嚢胞性子宮内膜過形成cystic endometrial hyperplasia
(CEH)の病態に細菌感染が加わると本症に至るとされている。CEHは一般的には内因性のプロゲステロン
の作用で誘因される。犬は 妊娠しなくても発情後2ヶ月以上にわたり機能黄体が存続する。正常であれば,
この非妊娠黄体期の終了とともにプロゲステロン誘因性 の子宮内膜の変化は消退する。プロゲステロンの
作用が強すぎたり長引きすぎたり,あるいは子宮内膜側のプロゲステロンに対する感 受性に異状があると,
CEHが惹起される。個体によって病的変化が生じたり生じなかったりする機序は,厳密には分かっていない。
CEH はそれ自体で症状を発現する事は滅多にない。時に子宮内膜腺からの分泌亢進により,子宮腔内に
漿液性ないし粘液性の液体貯留が 生じ(hydrometra,mucometra),その液体が帯下として排出されたり,
腹囲が膨満したりする事もあるが,その場合も全身症状はみられ ない。時として外因性のプロゲステロン
またはエストロゲンもCEHの原因となる事がある。合成プロゲステロン剤の使用がCEHを誘因する
可能性は否定できない。エストロゲンはそれ単独でCEHを引き起こす事はないが,内因性プロゲステロン
活性の高い発情休止期に投与すると子宮蓄膿症の引き金になる恐れがある。感染菌は膣の常在菌叢
から来るものと思われ,大多数の症例から大腸菌が分離される。他に,溶血性レンサ球菌,ブドウ球菌,
クレブシェラ,パスツレラ,シュードモナス,プロテウス,マラセチアなどが分離され、混合感染も多い。
感染菌は子宮腔内に留まり,血中に出る事はないが,エンドトキシンは血中に入り,
全身状態の悪化を引き起こす。                          
 
          犬の診療最前線・interzoo より