☆排尿障害   
  排尿行動は,受動的な蓄尿相と能動的な排尿相の2つの過程から成り,これらの過程が妨げられた
状態を排尿障害と呼ぶ。尿失 禁は,膀胱および尿道括約筋の随意的制御不能の結果であり,蓄尿と
排尿の制御にかかわるさまざまな構成要素のいずれかの機能 不全によって生じることがある。
このため,排尿障害の原因を究明し,適切に管理していくためには,下部尿路の解剖と正常な排尿に
関 する知識が不可欠である。排尿障害は,神経原生および非神経原生排尿障害には,上位運動
ニューロン性排尿障害,下位運動ニューロン性排尿障害,排尿筋 −尿道共同運動障害があり,
非神経原生排尿障害には,ホルモン反応性尿失禁,尿道機能不全,切迫尿失禁,過膨張による
排尿筋アトニ−,奇異性尿失禁,異所性尿管がある。
1,上位運動ニューロン性排尿障害
   椎間板疾患,腫瘍,外傷といった,橋から第7腰髄分節までの病変は,排尿筋反射消失をもたらし,
    外尿道括約筋の反射亢進と緊張亢進を引き起こすことがある。このため,排尿の随意的制御が欠如し,
    膀胱圧迫による排尿操作が困難になる。損傷後数週間すると,脊髄反射が回復し,膀胱が限界容積に
    達することによって不髄的排尿が生じる.(自動性膀胱)。この時期になっても,外尿道括約筋は
    緊張亢進状態のままである。尿道に流出抵抗があり,尿が完全に排出されないために,膀胱内には
     残尿が存在する。
2,下位運動ニューロン性排尿障害
   仙髄分節,神経根,末梢神経の損傷は,排尿筋の反射消失をもたらすことがあり,尿道括約筋の反射消失
   が生じることも生じないこともある。このような損傷の原因となる疾患には,椎間板疾患,馬尾症候群,
   仙腸骨脱臼,仙尾骨の骨折および分離,腫瘍がある。 排尿筋のアトニ−は,膀胱の過膨張をもたらし,
   大量の残尿による膀胱容積の増大が生じる。陰部神経が損傷を受けている場合には,外尿道括約筋は
   機能不全状態になる。下位運動ニューロン性排尿障害では,膀胱が膀満状態になり,膀胱内圧が
   上昇すると,括約筋は排尿の自制を維持することができず,尿の漏出が生じる.
3,排尿筋−尿道共同運動障害
  この疾患では,排尿筋反射の開始によって排尿が起こるが,続いて尿道括約筋の収縮が不随意に生じる.
   この疾患は毛様体脊髄路の病変によって生じる.また,尾側腸間膜動脈神経節より頭方の病変,または
   尾側腸間膜動脈神経節自体の病変によって,尿道の平滑筋と横紋節に対する交感神経刺激の増大が
   生じることもある。
4,ホルモン反応性尿失禁(エストロゲン反応性尿失禁の項=P.159=を参照)
  ホルモン反応性尿失禁は,主として不妊手術を受けた雌犬に認められている.手術を受けてから症状が
  発現するまでの期間は,さまざまである。この疾患の病因は不明であるが,尿道の粘膜および筋組織の
  適切な維持と機能にはエストロゲンが必要であり,このホルモンの主要な出所を切除することによって,
   尿失禁が生じる事があると考えられている.ホルモン反応性尿失禁は去勢手術を受けた雄犬にも
   認められている.
5,尿道機能不全
   この疾患では,犬が緊張状態になると,不随意な排尿が生じる.この疾患の原因は,尿道平滑筋の
   機能不全または尿道の位置異常であると考えられている.
6,切迫尿失禁
   切迫尿失禁では排尿筋が不随意に収縮し,少量の尿が排泄される.この疾患は膀胱の炎症や
   膀胱に対する刺激によって生じる.また,長脊髄路や小脳の病変によっても生じることがある。
7,過膨張による排尿筋アトニ-
  この疾患は,機械的または機能的な尿路閉塞の結果として生じ,排尿筋の密着帯の分離がもたらされる.
  このため,排尿筋の収縮力は低下し,有効に作動しなくなる。機械的尿路閉塞の原因には,尿道閉塞,
   膀胱および尿道結石,膀胱三角部や尿道の腫瘍,重度の膀胱炎,尿道狭窄,前立腺疾患がある。
   機能的尿路閉塞の原因は,尿道に対する過度の交感神経刺激であり,この結果として 尿道の緊張が
   亢進する。機械的または機能的尿路閉塞野結果,膀胱内圧が尿道抵抗を上回るまで尿量の増加が
    生じる.膀胱内圧が尿道圧を上回れば,排尿筋が有効に収縮しないため,尿の滴下が生じる.
8,奇異性尿失禁
  この疾患では,尿路閉塞に伴って尿の滴下が生じる.この疾患は尿道結石,腫瘍,尿道炎によって生じる
   部分的尿道閉塞の結果として引き起こされる。過膨張による排尿筋アトニ-との相違点は,疾患の
    持続期間が短く,排尿筋アトニ-が永続しないことである。
9,異所性尿管
  異所性尿管は尿管が遠位尿道や膣といった異常な位置に開口する先天性形成異常であり,
   持続的または間欠的な尿の滴下を引き起こす。                                       
 
 
 
         犬の診療最前線・interzoo より