☆カンピロバクター症  
  カンピロバクターはグラム陰性徴好気性ラセン菌であり、運動性のある細くて曲がった桿菌である。
無症状の犬からも頻繁に検出される。主にCompylobacter jejuni が原因で、犬やヒトに腸炎を起こす。
罹病犬よりヒトに感染した例が報告されている。また、鳥類も高率に感染している。人畜共通感染症のため、
下痢している犬の便の扱いを衛生的に処理することが飼い主にとっても重要である。
 
   ☆エルシニア症  
  グラム陰性通性嫌気性桿菌である。Yersinia enterocolitica は、犬やヒトにおいて急性または慢性の
下痢を起こす。正常犬の6%で検出されている。日本とスカンジナビアでは保有率が高いという報告がある。
腸粘膜上皮に侵入し、炎症性腸炎となる。食欲不振,嘔吐,下痢による脱水,血様性下痢,高熱を起こし、
特に幼若な子犬に高率に発生する。急性腸炎では、主に回腸が侵される。
 
   ☆大腸菌症  
  Escherichia coli は、グラム陰性通性嫌気性桿菌である。ヒトならびに動物の腸内常在菌であり、
特に大腸に生息している。血清型により多数の型に分類され、病原性を持つものもおよそ100種以上
報告されている。腸毒素産生型大腸菌と粘膜侵入性の大腸菌により、腸炎が引き起こされる。腸毒素は、
上皮細胞に結合し、腸液の分泌を増加させ、等張液の大量喪失を起こす。近年、ヒトで食中毒の原因として
問題になっているE.coli O-157:H7は、ベロ毒素を産生し、溶血性尿毒素症候群を発症する。
犬への感染も報告されている。ベロ毒素は、細胞の壊死をもたらす毒素で菌体の崩壊により遊離する。
 
     ☆腸内細菌の異常繁殖
  胃腸の細菌叢は、胃酸の分泌,腸の運動性,胆汁・膵液の分泌,局所免疫,腸粘膜の粘液層や
食物などいろいろな要因が複雑に作用し合って調節されている。小腸内での細菌の異常繁殖は
以下のような病体のときに起こる。
   1)胃酸の分泌異常:胃炎,胃萎縮
   2)腸運動性の異常:特発性,神経性,炎症性の腸疾患,腸重責,異物,
     腫瘍などによる通過障害。回盲部の通過異常。
   3)局所免疫の異常:IgA分泌の不足,栄養失調。
   4)膵外分泌不全
   5)粘液産生不全
   6)栄養吸収不全
 好気性菌や嫌気性菌異常繁殖により空腸粘膜に可逆性の損傷が与えられるようである。
好発犬腫としては、ジャーマン・シェパードがあげられる。ジャーマン・シェパードの症例では明らかな
腸の運動不全の形跡を認めることは難しいが、局所免疫の異常が関係している場合が考えられる。
 
     ☆クロストリジウム性食中毒
  Clostridium perfringens の産生する腸毒素により、腸粘膜が冒され下痢症状となる。この菌は犬の大腸
の常在菌で、毒素は胞子外膜に含まれる。胞子形成や毒素産生がなぜ起こるかはよくわかっていない。
また線維反応性の大腸性下痢などとの関連性もはっきりしない。
 
    ☆急性腸炎
  急性の腸炎は、禀告により48時間以内に急激な水様性・粘血性の下痢を発症し、ときには嘔吐を伴う
非特異的病態である。急性の下痢が起こった場合に臨床医は、その原因について慎重で迅速な診断と
治療が必要となることがある。なぜなら急性の下痢症の原因はさまざまで、初期には確定しにくく、治療いかん
によっては病態を複雑化させ、慢性的経過に移行したり、また急性腹症のような、緊急の処置をとらなければ
ならない場合もあるからである。急性の下痢の多くは、食事性の因子に起因し、食物不耐性や食物アレルギー
などと臨床診断されるが、その他,ウィルス性,細菌性,寄生虫性など急性の下痢を起こす原因は多様である。
診断の概念として、小腸性かまたは大腸性かの判別も治療の方針を決定する上で有益である。                 
 

                     
犬の診療最前線・interzoo より